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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和51年(ネ)99号 判決

九九号事件控訴人・一〇四号事件被控訴人(第一審甲・乙事件被告) 石川いすず自動車株式会社 (以下「第一審被告石川いすず自動車株式会社」または「第一審被告石川いすず」という)

右代表者代表取締役 田川次作

右訴訟代理人弁護士 荒谷昇

一〇四号事件控訴人・九九号事件被控訴人(第一審甲事件原告、乙事件被告) 町野吉蔵(以下「第一審原・被告町野吉蔵」という)

一〇四号事件控訴人・九九号事件被控訴人(第一審甲事件原告) 町野シゲ子(以下「第一審原告町野シゲ子」という)

右両名訴訟代理人弁護士 高沢邦俊

同 米沢龍信

同 林周盛

一〇四号事件被控訴人(第一審甲事件被告) 国 (以下「第一審被告国」という)

右代表者法務大臣 奥野誠亮

右指定代理人 岸本隆男

〈ほか九名〉

一〇四号事件被控訴人(第一審乙事件原告) 平ちの(以下「第一審原告平ちの」という)

〈ほか二名〉

右三名訴訟代理人弁護士 田中清一

主文

一  第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子の控訴に基き、原判決主文一項および二項中第一審被告石川いすず自動車株式会社に関する部分を次のとおり変更する。

1  第一審被告石川いすず自動車株式会社は、第一審原・被告町野吉蔵に対し金七五五万一五〇〇円、第一審原告町野シゲ子に対し金七四三万六〇〇〇円、および右各金員に対する昭和三九年八月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子の第一審被告石川いすず自動車株式会社に対するその余の請求を棄却する。

二  第一審被告石川いすず自動車株式会社の本件控訴を棄却する。

三  第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子の第一審被告国に対する本件控訴(当審において拡張した請求を含む)を棄却する。

四  第一審原・被告町野吉蔵の第一審原告平ちの、同牧野茂、同牧野さよに対する本件控訴を棄却する。

ただし、当審における請求の減縮により、原判決主文三項中第一審原・被告町野吉蔵に関する部分は次のとおり変更された。

第一審原・被告町野吉蔵は、第一審原告平ちのに対し金五九三万七五〇〇円、第一審原告牧野茂に対し金二二九万三一二五円、第一審原告牧野さよに対し金二三一万四三七五円および右各金員に対する昭和五二年三月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

五  訴訟費用につき、第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子と第一審被告石川いすず自動車株式会社との間に生じた費用は第一、二審を通じてこれを二分し、その一を第一審被告石川いすず自動車株式会社の負担、その余を第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子の負担とし、第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子と第一審被告国、第一審原告平ちの、同牧野茂、同牧野さよとの間に生じた当審訴訟費用は第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子の負担とする。

六  この判決の一項1は仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求める裁判

1  第一審被告石川いすずの求める裁判

(九九号事件につき)

(一) 原判決中第一審被告石川いすず敗訴部分を取消す。

(二) 第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子の第一審被告石川いすずに対する請求を棄却する。

(一〇四号事件につき)

第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子の第一審被告石川いすずに対する本件控訴を棄却する。

(訴訟費用につき)

訴訟費用は第一、二審とも第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子の各負担とする。

2  第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子の求める裁判

(一〇四号事件につき)

(一) 原判決中第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子に関する部分を次のとおり変更する。

(二) 第一審被告石川いすず、同国は、各自、第一審原・被告町野吉蔵に対し金一六二〇万四五五七円、第一審原告町野シゲ子に対し金一六〇〇万八一三七円および右各金員に対する昭和三九年八月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え(付帯請求につき当審における請求の拡張がある)。

(三) 第一審原告平ちの、同牧野茂、同牧野さよの第一審原・被告町野吉蔵に対する請求を棄却する。

(四) (二)項につき仮執行宣言。

(九九号事件につき)

第一審被告石川いすずの本件控訴を棄却する。

(訴訟費用につき)

訴訟費用は第一、二審とも第一審被告石川いすず、同国、第一審原告平ちの、同牧野茂、同牧野さよの各負担とする。

3  第一審被告国の求める裁判

(一〇四号事件につき)

(一) 第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子の第一審被告国に対する本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子の各負担とする。

(三) (仮定的に)担保を条件とする仮執行免脱宣言

4  第一審原告平ちの、同牧野茂、同牧野さよの求める裁判

(一〇四号事件につき)

第一審原・被告町野吉蔵の第一審原告平ちの、同牧野茂、同牧野さよに対する本件控訴を棄却する(ただし、当審において主文四項ただし書のとおり請求を減縮)。

二  当事者の主張

以下のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示第二のうち本件各当事者関係部分と同一であるからこれを引用する。

1  第一審被告石川いすずの主張

(一)  事故原因および責任について

(1) 本件事故はブレーキ装置の故障に起因するものではなく、第一審原・被告町野吉蔵の一方的過失に起因するものである。詳細は第一審被告国の後記(3の(一))主張を援用する。

(2) かりに、ブレーキホースの破損が本件事故の原因であるとしても、テンションアームとブレーキホースの間隔が短いことは改造整備前において既に存した欠陥であり、それは自動車製造業者の責任である。自動車の整備業者は整備する自動車があるべき状態に整備する。本件自動車についていえば、ブレーキホースの位置はもともと上回りでありこれを下回りに変更することは許されない。スプリングの数についても同様である。第一審被告石川いすずとしては、本件自動車をそれがあるべき状態に整備したにもかかわらず本件事故が発生した。それは欠陥車であったからであり、その責任の全部または大部分は製造業者が負わなければならない。

第一審被告石川いすずとしては、ブレーキホースの破損が原因で本件事故が生ずるというようなことは予見できなかったし、予見できなかったことにつき過失はない。

(二)  損害について

かりに、第一審被告石川いすずに何らかの過失があるとしても、損害の算定において、逸失利益は事故当時である昭和三九年度の平均給与額によるべきものである。

(三)  消滅時効について

(1) 第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子が当初訴状において請求したのは債務不履行に基く損害賠償であり、その後昭和四三年六月二〇日付準備書面において不法行為による損害賠償請求を予備的に提訴した。債務不履行による損害賠償と不法行為による損害賠償とは本質的に異るのみならず、同人らは後者を第二次の訴訟として提起している点からみても、別訴であることは明らかである。従って、本件事故後三年を経過した昭和四二年八月一九日をもって不法行為に基く損害賠償請求権は時効消滅した。

(2) 第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子は、昭和五〇年一二月一二日に至り請求額を大巾に増額した。民訴法二三二条、二三五条によれば、請求の変更についての時効の中断は変更の書面を裁判所へ提出したときである。右増額部分は、右条文により三年の消滅時効完成後の請求であり、失当である。

(3) また、当審において拡張請求した遅延損害金についても請求拡張時から三年以前の分は消滅時効が完成しているのでこれを援用する。

(四)  瑕疵担保責任について

第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子の瑕疵担保責任による請求は、一年の除斥期間が経過しているから失当である。

(五)  示談の有効性について

第一審原・被告町野吉蔵は、昭和四一年一一月三〇日(示談金三〇万円を受領した日)当時、さして窮迫していたとは認められない。即ち、同人は自己あるいは家族名義の土地建物を所有し、当時は抵当権設定も少く、後に多額の抵当権を設定していることからみれば、昭和四一年一一月当時は金融余力が十分にあったものとみなければならない。

また、胆石症の手術費用捻出のため不本意ながら示談に応じた旨主張するが、金三〇万円受領後直ちに手術をしたわけでもなく、一二月一九日に至って手術をしたというのであり、しかも支払額は不明である。

2  第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子の主張

(一)  第一審被告国の責任について

(1) 自動車は運輸大臣の行う検査を受け、有効な車検証の交付を受けているものでなければこれを運行の用に供してはならず、右車検証は保安基準に適合すると認めるとき交付される。そして、道路運送車両の保安基準一二条一項一号によれば、「制動装置は堅ろうで運行に十分耐え、かつ、振動、衝撃、接触等により損傷を生じないように取付けられていること」が要求されており、自動車検査業務等実施要領には、右一二条一項一号の基準に適合しない例として、「ブレーキ系統の配管に走行中ドラックリンク、推進軸、排気管などと接触した痕跡があるものまたは接触するおそれがあるもの」が挙げられている。また、道路運送車両の保安基準詳解によれば、最大積載量の指定は「最大積載量の算定基準」を満足するものでなければならないが、その7には、「各部強度(保安基準八、九、一一ないし一四、一八、一九及び二七条)、動力伝達装置等、かじ取装置、制動装置、車わく、車体、緩衝装置、物品積載装置等が積車状況においても安全な運行を確保できる強度と剛性を有すること。」と規定されている。したがって、専門職たる自動車検査官としては、車検に当たり、単に右基準及び実施要領に形式的に適合するか否かをチェックするのみならず、実質的に安全性を確保する見地から慎重な点検をなし、もって保安基準に適合しない自動車の運行による危険を未然に防止すべき高度の注意義務が要求されるものといわなければならない。

しかるに、本件自動車の検査に当たった川部正己検査官は、本件自動車の制動装置を構成するリヤーブレーキホースはデファレンシャルの上部のところに取付けられており、その真上にはテンションアームが位置し、両者の間隔は僅少(約六センチメートル)であったのであるから、積荷した場合または走行時の振動等によりテンションアームが下がり、右ブレーキホースを圧迫し、接触、摩耗により右ブレーキホースが破損し、制動不能の状態に陥いる危険は十分予見可能であったにもかかわらず、前記注意義務を怠り、安易にも右接触のおそれはないものと軽信し、何らの措置もとることなく検査合格と判定して本件自動車を運行の用に供せしめた過失により、本件事故を惹起させたものである。

右は、国の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、過失により違法に他人に損害を加えた場合に該当するから、第一審被告国は国家賠償法一条による責任を免れない。

仮に同法の適用がないとしても、第一審被告国は、被用者たる自動車検査官が、その事業の執行につき第三者に損害を加えた場合として、民法七一五条による使用者責任を免れない。

(2) 車検制度は、道路運送車両の構造及び装置が運行に十分堪え、操縦その他の使用のため作業に安全であるとともに、通行人に危害を与えないことを確保されているかどうかを検査し、右検査に合格しない車両については自動車検査証を交付せず運行を禁止する制度である。したがって、車検に合格した車両については特段の事情のない限り自動車検査証の有効期間に於ける車両の安全性を保障するものである。逆にいえば、国は通行人その他に危害を与えるおそれのある車両を運行の用に供することを防止する義務があり、この義務を果すために車検制度をもうけたのである。

自動車の製造業者、自動車整備業者は自動車をユーザーに売渡すためには自動車を新規登録する必要があり、そのためには新規検査すなわち車検を受け、これに合格し、自動車検査証の交付をうけなければならない。継続検査についても同様である。車検は厳格であり不合格率は三五・三%であるという。そうだとすれば、自動車製造業者、同整備業者は国の行う車検に合格することを目的として各種の自動車を製造し、又は整備しており、車検に合格したことをもって、安全性が保障されたものと信頼していることは疑う余地のないことである。その安全性の保障期間は特段の事情のない限り自動車検査証の有効期間であることも疑う余地はない。特段の事情のない限りというのは、仕業点検、定期点検において保安基準に適合しない異常の状態を発見した場合は自動車運行者又は使用者に整備義務が発生するから除外すべきだと考えるからである。

通常のユーザー、ドライバーは、ディラーのサービスが行き届いたこともあり殊更に仕業点検しなくても、運転を開始すれば仕業点検で発見しうる程度の欠陥はすぐ判明し、適切の措置をとることができる。仮りに仕業点検をしたとしても、現在のドライバーは有効な仕業点検をする自動車の構造上の知識を有していないことは公知の事実である。ドライバーは国の車検に合格していること、自動車整備工場の定期点検、整備に出したことによって自動車の安全性が保障されたものと信頼して安心して自動車を運転しているのである。これはドライバーの常識である。原判決は「自動車の安全性の確保についての基本的かつ第一次的責任は自動車の使用者にある」と判示しているが、かかる見解はドライバーに自動車検査官以上の自動車の構造機能上の専門的知識及び技術を要求するもので著しく経験則に違反するばかりでなく、国又はメーカー又は業者の負うべき自動車事故の責任をドライバーに転嫁しようとするもので著しく社会正義に違反するもので到底首肯できない。

(二)  第一審被告石川いすずの責任について

かりに、第一審被告石川いすずに債務不履行責任がないとしても、民法五七〇条により瑕疵担保責任を免れない。

(三)  損害について

(1) 弁護士費用として認容金額の一〇%を請求する。

(2) 遅延損害金として本件事故発生の日である昭和三九年八月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払を求める(従って、原判決七枚目表一〇行目に「本件不法行為の日の後である昭和五〇年一二月一二日」とあるのを「本件不法行為の日である昭和三九年八月一九日」と訂正する)。

(四)  第一審被告石川いすずの消滅時効の抗弁に対する再抗弁

(1) 不法行為による損害賠償請求と債務不履行による損害賠償請求とは、いずれも本件事故による損害賠償請求であり、訴訟物は一個であるから、本件訴訟を提起したとき本件事故により発生した全損害に時効中断の効力が及ぶと解すべきである。

(2) 本件債務不履行による損害賠償請求訴訟を提起したとき不法行為による損害賠償につき裁判上の催告が継続しているものと解し、当該訴訟の終結したときから六か月以内に他の強力な中断事由に訴えれば時効中断の効力は維持されるものと解すべきである。最高裁大法廷判決もこの理を認めている。

(3) 本件事故による損害賠償請求について、債務不履行責任によるか不法行為責任によるかは理論的に難しい点もあり、債務不履行による損害賠償請求訴訟係属中に第二次的に不法行為による損害賠償請求を追加したことをもって消滅時効を援用することは、本件事故による損害賠償義務を不当に免れんとするものであり、権利の濫用ないしは信義則に反する主張というべきであり、許されるべきではない。

(4) また、明示的一部請求の場合はともかく、そうでない場合には訴訟物となるのは当該債権の全部であるから、訴提起による時効中断の効力は右債権の同一性の範囲内においてその全部に及ぶものと解すべきである。

(五)  第一審被告石川いすずの過失相殺の主張に対する反論

本件は亡町野吉輝の死亡による損害の賠償を請求するものであるから、賠償額の算定において被害者本人ではない第一審原・被告町野吉蔵の過失を斟酌することは不当である。

3  第一審被告国の主張

(一)  本件事故の原因について

本件事故の原因は、第一審原・被告町野吉蔵が本件自動車に最大積載量を超える積載をしたうえ、交通量が頻繁で追越しが危険であるにもかかわらず変速機による減速を行うことなく漫然と被害車両の追い越しを試みたことにある。

第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子は、本件事故の原因はブレーキホースの破損によるものであると主張するが、事故当時ブレーキが正常に作動していたことは、事故現場に一〇・〇九メートルにわたって本件車両の右前輪の滑走痕がついていることから明らかである。即ち、本件車両の主制動装置は二重安全ブレーキになってはいなかったから、油圧式フートブレーキの配管の一部が損傷すれば直ちに全車輪のブレーキ機能が失われることになり、路面に滑走痕がつくはずがないのである。

(二)  車検制度について

道路運送車両法(ただし、昭和四四年法律第六八号による改正前のもの。以下単に「法」という)はその第三章四〇条以下において、その構造、装置その他について所定の保安上の技術基準に適合しない自動車を運行の用に供してはならない旨規定している。そして、その実効性を確保するため第四章四七条以下において自動車使用者等に対し常にこれらの自動車を保安基準に適合するように維持していくために、一日一回の仕業点検および所定の定期点検をなすべきことが義務づけられているのであるが、自動車が高度に公共の安全にかかわるものであることから、「法」はさらにその万全を期するため、使用者が保安基準に適合するよう自動車を維持しているか否かを後見的に確認する手段として第五章五八条以下において道路運送車両の検査制度を設けているのである。

即ち、国が行う道路運送車両法に基く検査は、使用者が負うべき自主的整備義務を完全に履行しているかどうかを国が後見的に確認することにより、使用者自身の右整備義務の履行を促進するということにその本質を有するものであり、自動車検査証の有効期間中、その間継続的に当該車両の構造、装置等が運輸省令に定める保安基準に適合し続け、かつその間安全に運行の用に供し得るものであることを保証するわけのものではない。このことは、仕業点検および定期点検整備を義務づけられている自動車よりも、新規検査、継続検査の対象とされている自動車の範囲の方が狭いことからも明らかであり、現実の問題として国が検査対象車のすべてにつき、一年または二年という長期の自動車検査証有効期間中、継続して個々的にその安全性を常に保証するということは、自動車それ自体の日々の使用状態が車両ごとあるいは使用者ごとに異るものである以上、人的にもまた物的ないし技術的にも到底不可能に属することである。

(三)  本件車両検査の実施について

本件車両検査において、川部検査官および能瀬技官は当該車両につき(1)検査申請書類と現車の同一性の確認および車両上廻りの構造装置についての検査、(2)スピードメーターテスターによる検査、(3)ヘッドライトテスターによる検査、(4)重量計による重量測定と車両の諸元寸法の計測、(5)サイドスリップテスターによる検査、(6)テスト・リフトによる車両の下廻りの構造、装置についての検査、(7)運転者席の検査、(8)ブレーキテスターによる検査等、本件自動車の構造、装置等について保安基準に従い、自動車検査用機器により判定するものは機器を使用し、また、き裂、がた、取付のゆるみの有無等を検査用ハンマー等を用いるとともに視認によりチェックしたもので、特に後輪ブレーキホース取付状態については、諸規定にてらし寸分の間違いもなく入念な検査を行ったものである。

4  第一審原告平ちの、同牧野茂、同牧野さよの主張

(一)  右第一審原告らと第一審被告石川いすずの間において、昭和五二年一月一八日、本件事故に関し訴訟上の和解が成立し、右第一審被告から昭和五二年二月二八日までに、第一審原告平ちのに対し金一八〇〇万円、同牧野茂に対し金八〇〇万円、同牧野さよに対し金七五〇万円の和解金が支払われ、これによって右第一審原告らの損害の一部が填補された。

損害填補の内訳は次のとおりである。

(1) 第一審原告平ちのにつき

イ 平秀次死亡による損害に対し金九〇六万二五〇〇円

ロ 平秀次死亡による損害賠償金一五〇〇万円の昭和四〇年四月一日から昭和五二年二月二八日までの支払遅延による損害に対し金八九三万七五〇〇円

(2) 第一審原告牧野茂につき

イ 牧野一義の死亡および牧野茂の負傷による損害に対し金四一五万六八七五円

ロ 牧野一義死亡による損害賠償金六一五万円および牧野茂負傷による損害賠償金三〇万円、合計金六四五万円の昭和四〇年四月一日から昭和五二年二月二八日までの支払遅延による損害に対し金三八四万三一二五円

(3) 第一審原告牧野さよにつき

イ 牧野一義死亡による損害に対し金三八三万五六二五円

ロ 牧野一義死亡による損害賠償金六一五万円の昭和四〇年四月一日から昭和五二年二月二八日までの支払遅延による損害に対し金三六六万四三七五円

(二)  原判決二〇枚目表四行目から一三行目まで(乙事件請求原因6項)のうち右第一審原告らと第一審原・被告町野吉蔵とに関する部分を次のとおり訂正する。

「6 (結論)

よって、第一審原・被告町野吉蔵に対し、第一審原告平ちのは(一)の(1)ないし(4)の合計額金二九八六万五二四一円から前記和解金による填補額を控除した金二〇八〇万二七四一円の損害賠償金の内金として金五九三万七五〇〇円、第一審原告牧野茂は(二)の(1)ないし(4)および(6)、(三)の(1)ないし(3)の合計額金九六四万二二四四円から(二)の(5)および(三)の(4)の填補額ならびに前記和解金による填補額を控除した金四六八万四一八九円の内金として金二二九万三一二五円、第一審原告牧野さよは(二)の(1)(4)(6)の合計額金八七〇万四四四六円から(二)の(5)の填補額および前記和解金による填補額を控除した金四三六万八八二一円の内金として金二三一万四三七五円ならびに右各金員に対する昭和五二年三月一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

三  証拠関係《省略》

理由

一  甲事件について

1  請求原因1の事実(本件事故の概要)は当事者間に争いがない。

2  事故態様の詳細および事故の原因に関する当裁判所の判断は、事故原因について次のとおり補足するほか、原判決理由説示二項1と同一であるからこれを引用する(ただし、原判決二七枚目表一一行目に「滑走痕」とあるのを「車輪痕」と訂正する)。

右認定事実(原判決引用)によれば、本件自動車には、その最大積載量以下である約三・八トンの貨物を積載した時に生ずる荷台の沈下により、荷台下部に付属するテンションアームがブレーキホースに接触し、さらに積載を増すとテンションアームがブレーキホースを圧迫し、遂には走行時の振動が加わってブレーキホースを損傷するという構造上の欠陥が存したところ、第一審原・被告町野吉蔵において約五・三トンの貨物を積載して本件自動車を走行させた結果、徐々にブレーキホースに損傷が生じ、本件事故現場における二回目のブレーキ操作の際遂に穿孔が生じてブレーキオイルが噴出し、ブレーキが作動しなくなったため、本件自動車が停止せず前記事故となったものであること、即ち、本件事故は本件自動車に存した構造上の欠陥に起因して発生したものであることを認めることができる。

第一審被告国、同石川いすずは、事故現場の路面に本件車両の右前輪による制動痕がついていたこと、路上にブレーキオイルが飛散していなかったことを根拠として、衝突時までには未だブレーキホースの破損は生じていなかったと主張するので検討するに、《証拠省略》には、たしかに、本件事故現場のアスファルト舗装部分に本件車両の右前輪によるものとみられる滑走痕ないし車輪痕が中心線付近から道路左端まで一〇・九メートルにわたって極く薄くついていた旨の記載があるが、本件車両は庭石等の重量物を積載した状態で左に急ハンドルを切ったものであることにてらすと、右記載のような痕跡があったとしてもそれが制動痕であるとはにわかに断定できず、また、《証拠省略》中、右記載のような直線に近い痕跡は急ブレーキによって車輪がロックされた場合以外には生じない旨述べる部分は、充分な実証的根拠に基くものとは考えられず採用できない。なお、ブレーキオイルが路上に飛散していないことはたしかであるが、ブレーキホースの破損部位からみて、ブレーキオイルが上方に噴出して車体下部に付着し路上に飛散しなかったことは何ら異とするに足りず、前記認定を左右するものではない。

第一審被告らは、本件事故は第一審原・被告町野吉蔵の故意過失に起因するとして種々主張するが、前記構造上の欠陥以外にもこれと相俟って本件事故の発生に寄与した要因が存するとしても、前記構造上の欠陥と本件事故との間の因果関係が否定されるものではないから、それらの主張は過失相殺の主張としてであればともかく、因果関係の存在を否定する主張としては失当である。

他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。

3  第一審被告石川いすずの責任について

(一)  契約上の責任について

第一審被告石川いすずと第一審原・被告町野吉蔵との間において本件自動車を目的とする売買契約が成立したことは右当事者間に争いがない。

そして、第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子は第一審被告石川いすずに対し、第一次的に、前記欠陥の存する自動車を供給したことについての契約上の責任(債務不履行責任または瑕疵担保責任)の追及として右欠陥に起因して同人らの長男町野吉輝の生命が侵害されたことに対する損害の賠償を求めるものであるが、右町野吉輝は契約の当事者ではないから契約上の責任が同人の生命侵害による損害の賠償にまで及ぶかどうか疑問であるだけでなく、かりに、この点を肯定的に解するとしても、本件自動車の売買は後記の事実関係にてらし特定物の売買と解すべきであるから、給付された物に存する欠陥についての契約上の責任は、債務不履行責任ではなく民法五七〇条、五六六条による瑕疵担保責任であるといわざるを得ず、そうだとすれば、右規定に基く損害賠償請求権は同法五六六条三項により一年の除斥期間の定めに服すると解すべきところ、弁論の全趣旨によれば、第一審原・被告町野吉蔵および第一審原告町野シゲ子は、本件事故の日である昭和三九年八月一九日の後間もなく本件事故が前記構造上の欠陥に起因するものであることを知ったと認められるから、右損害賠償請求権は、本件の訴状が提出された昭和四二年八月一七日には既に除斥期間の経過により消滅していたといわなければならない。

従って、契約上の責任としての損害賠償を求める第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子の第一審被告石川いすずに対する第一次的請求は理由がない。

(二)  不法行為責任について

弁論の全趣旨によれば、第一審被告石川いすずは自動車の販売、修理等を業とする会社であることが認められるところ、同第一審被告から第一審原・被告町野吉蔵に売渡された本件自動車には構造上の欠陥が存し、これに起因して本件事故が発生したことは前記のとおりである。

右売買契約の締結から本件自動車の引渡に至る経過についての当裁判所の認定判断は、原判決理由説示四項1の(二)と同一であるからこれを引用する。

ところで、一般に、自動車の販売、修理等の業務に従事する者は、直接の契約当事者である顧客に対し欠陥のない自動車を供給すべき契約上の義務を負うことはいうまでもないが、直接の契約当事者でなくとも、その家族、被用者等当該自動車を利用することが予想される者、さらには道路交通において当該自動車とかかわりを持つに至るであろう他の車両の乗員あるいは道路歩行者との関係においても、安全性につき社会的に期待される水準の品質を備えたものとしてこれを供給し、もって当該自動車の構造上の欠陥に起因して右の者らの身体、生命、財産に被害が生ずることを回避すべき不法行為法上の義務を負うものといわなければならない。

しかして、第一審被告石川いすずは、本件自動車を第一審原・被告町野吉蔵に売渡すに際し、後記の過失により前記構造上の欠陥を看過し、もって右義務に違反し、その結果、訴外町野吉輝を死亡するに至らしめたものであるから、民法七〇九条により同人の死亡によって生じた損害につき賠償責任を負うといわなければならない。

第一審被告石川いすずの過失に関する当裁判所の判断は、次のとおり補足するほか、原判決理由説示四項2と同一であるからこれを引用する。

第一審被告石川いすずは、前記構造上の欠陥は、もともと改造前の状態においても存した欠陥であってそれについては自動車製造業者が責任を負うべきであると主張する。たしかに、《証拠省略》によれば改造前の一九五九年式日産ダンプカーにも前記構造上の欠陥を生ぜしめる素因が潜在していたことがうかがえないではないが、第一審被告石川いすずはこれを単に整備しただけではなく、モノレール付トラックに改造したものであり、しかも右改造によって前記構造上の欠陥が顕在化したものであることが推認されるから、同第一審被告に過失がないとはいえない。

同第一審被告には右欠陥が原因で事故が生ずることを予見する能力がなかったとの主張は、前認定の諸事情(原判決引用)にてらし採用できない。

4  第一審被告国の責任について

当裁判所も原審裁判所と同じく、道路運送車両法に基く自動車の検査は国の公権力の行使であり、自動車検査官がその職務を行うについて故意または過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国はその賠償の責に任じなければならないが、本件については、本件自動車の検査を担当した自動車検査官の故意過失が認められないから、国は国家賠償法一条に基く賠償責任を負わないと判断するものであり、その理由は、原判決理由説示四項5と同一であるからこれを引用する。

なお、国家賠償法一条が適用される場合には民法七一五条の適用はないと解されるから、第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子の同条に基く主張は理由がない。

5  第一審被告石川いすずの示談の主張について

第一審被告石川いすずは、同第一審被告と第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子との間において昭和四一年一一月三〇日示談契約が成立し、その内容として第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子は本件事故につき示談金として受領した金三〇万円以外に何らの請求をしないことを約した旨主張し、第一審原・被告町野吉蔵が自己および第一審原告町野シゲ子の名義で右のような合意をしたことは当事者間に争いがないところ、当裁判所も原審裁判所と同じく右示談契約は無効であると判断するものであり、その理由は、次のとおり補足するほか、原判決理由説示五項1と同一であるからこれを引用する。

前記のとおり、右示談契約の成立までには第一審被告石川いすずと第一審原・被告町野吉蔵との間において数回にわたり交渉が重ねられており、この事実をみる限り同人が軽卒に右示談に応じたと考えることは困難である。しかしながら、前掲各証拠によれば、当時同人は、本件事故によりかけがえのない一人息子を失うという不幸に見舞われる一方、平秀次、牧野一義の遺族からは加害者として怨嗟され、そのうえ自らの健康状態もすぐれないという状況のもとで、その精神状態は暗澹たるものであったことは想像に難くなく、未だ本件事故に関する複雑な賠償問題と本格的に取組むだけの気力を回復していなかったと推認されるのであるが、さし当って金銭的にも困窮していたところから、人身被害とは関係のない物品損害と車両売買の清算の問題に限定して何らかの金銭的解決をはかろうと考え、第一審被告石川いすずに対し金四一万円余の請求をしたところ、同第一審被告としてはこれを機会に本件事故に関連する賠償問題を一挙に解決するのが良策と考え、金三〇万円の解決金の支払いと引換えに前記示談書に署名捺印することを執拗に要求したこと、第一審原・被告町野吉蔵は当初これを拒否し、前記の限定された問題についての解決を要求して抵抗していたものの、交渉が繰り返されるにつれて前記のような不安定な精神状態に由来する気力の衰えとさし当っての現金の必要から同第一審被告の要求に屈し前記示談書に署名捺印したものであることが認められ、右経過にてらすと、右示談の合意は、軽卒になされたものでないとしても、平常の精神状態のもとでなされた合意といささか異るものがあるといわざるを得ず、このことと前記示談金額が同第一審被告の免れようとする責任の重大さに比して余りにも少額であることにてらし、右示談契約に法的拘束力を認めることは、同第一審被告を不当に利することとなり、社会の健全な法感情に反するものといわなければならない。

6  第一審被告石川いすずの消滅時効の主張について

(一)  同第一審被告は、第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子が不法行為に基く損害賠償請求の訴を追加的に提起したのは本件事故後三年を経過した後であるとして消滅時効を援用する。

たしかに、記録によれば、第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子において法律上の主張として不法行為に基く損害賠償請求をなす旨の明確な主張をしたのは、昭和四三年六月二〇日の第三回口頭弁論期日におけるのが最初であることが認められる。

しかしながら、本件訴状には当初から事実上の主張としては不法行為に基く損害賠償請求の請求原因として不足のない記載があり、ただ、請求の法的性質が必ずしも明確にされていなかったものであるところ、前記期日において本件は契約責任と不法行為責任が競合する場合であるとの理解を前提として、債務不履行に基く損害賠償請求権を主位的に、不法行為に基く損害賠償請求権を予備的に主張する旨法律上の主張を整理したにすぎないとみるのが相当であり、そうだとすれば、不法行為に基く損害賠償請求について裁判上の請求による時効中断の効力は当初の訴提起によって既に生じていると解すべきであり、第一審被告石川いすずの右主張は理由がない。

(二)  右第一審被告はまた、第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子の同第一審被告に対する請求のうち、少くとも昭和五〇年一二月一二日に至って請求を拡張した部分については消滅時効が完成していると主張する。

しかしながら、訴の提起に際し一個の債権の一部についてのみ判決を求める趣旨であることが明示されている場合を除き、訴の提起による時効中断の効力は債権の同一性の範囲内においてその全部に及ぶと解すべきところ、本件訴の提起において右趣旨が明示されていたとみることはできないから、右訴の提起による時効中断の効力は本件事故による町野吉輝の死亡を理由とする損害賠償請求権全部について生じているというべきであり、従って、第一審被告石川いすずの右主張は理由がないといわなければならない。

(三)  同第一審被告は、付帯請求である遅延損害金請求についても、三年以上遡って請求を拡張した分の請求権は時効消滅していると主張する。

しかしながら、遅延損害金請求権は本来の債権の拡張であって、本来の債権と同一性を有すると解されるから、右(二)と同一の理由により、訴の提起による時効中断の効力は遅延損害金請求権全体に及んでいるというべきであり、従って、第一審被告石川いすずの右主張もまた理由がないといわなければならない。

7  過失相殺について

前記2において認定したところによれば、本件事故当時本件自動車を運転していた第一審原・被告町野吉蔵は、普通免許しか有しないのに大型免許を必要とする本件自動車を運転したこと、本件自動車の最大積載量は四・五トンであるにもかかわらず、これを約一トン超過した重量の積載をしたこと、当日の運転開始前の仕業点検においてはタイヤのつぶれ具合を点検した程度で法令に規定されている点検項目の多くを省略したことにおいて非難を免れず、これらの点は同人が被害者町野吉輝の父親であることにてらし被害者側の過失として賠償額の算定において斟酌されるべきものである。被害者本人でない者の過失を斟酌するのは不当であるとの第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子の主張は採用しない。そして右のうち無免許と仕業点検懈怠の点は道路交通法規に違反したに止り、本件事故発生との間に直接の因果関係は認められないが、積載超過の点は具体的な結果発生に対し原因を与えていることは明らかであり、これらの事情と第一審被告石川いすずの前記過失とを対比すると、本件事故に対する両者の過失割合は、第一審石川いすず七、被害者側三とみるのが相当である。

なお、第一審原・被告町野吉蔵が事故直前二回にわたって追越しを試みこれを中止した点、フートブレーキの異常に気付いた後専らハンドル繰作のみで衝突を回避しようとした点、町野吉輝が荷台に乗車していた点については、その違法性が必ずしも明白でないから、これらを過失相殺の事情として斟酌するのは相当でない。

8  損害について

(一)  町野吉輝の得べかりし利益喪失による損害、第一審原・被告町野吉蔵が町野吉輝の葬儀を行ったことによる損害についての当裁判所の判断は、原判決理由説示六項(一)の(イ)(ハ)と同一であるからこれを引用する。

(二)  右各損害につき前記過失割合による過失相殺を施して賠償額を算定すると、得べかりし利益喪失に基く分は金九五二万円、葬儀費の負担に基く分は金一〇万五〇〇〇円となる。

(三)  第一審原・被告町野吉蔵が町野吉輝の父、第一審原告町野シゲ子が町野吉輝の母であることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば他に相続人はいないと認められるから、町野吉輝の得べかりし利益喪失に基く損害賠償請求権は、父および母が二分の一宛相続により取得したものというべきである。

(四)  第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子が町野吉輝の死亡によって多大の精神的苦痛を蒙ったことは容易に推認されるところ、本件事故の態様、前記被害者側の過失等本件に現われた諸事情に鑑みれば、慰藉料として各金二〇〇万円が相当である。

(五)  第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子が本件訴訟の提起、追行を弁護士である本件訴訟代理人らに委任していることは記録上明らかであるところ、本件事案の性格、複雑性、審理期間等にてらし、弁護士費用のうち右に算定した賠償額の一〇%を本件事故と相当因果関係ある損害として右各賠償額に加算するのが相当である。

(六)  以上を要約すると、第一審原・被告町野吉蔵に対する賠償額は、得べかりし利益の喪失に関するものが金四七六万円、葬儀費用に関するものが金一〇万五〇〇〇円、慰藉料金二〇〇万円、以上合計金六八六万五〇〇〇円となるところ、これに弁護士費用としてその一〇パーセントである金六八万六五〇〇円を加算すると、結局金七五五万一五〇〇円となり、第一審原告町野シゲ子に対する賠償額は、得べかりし利益の喪失に関するものが金四七六万円、慰藉料金二〇〇万円、以上合計金六七六万円となるところ、これに弁護士費用としてその一〇パーセントである金六七万六〇〇〇円を加算すると、結局金七四三万六〇〇〇円となる。

9  結論

そうすると、第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子の第一審被告石川いすず、同国に対する請求は、第一審被告石川いすずに対し、不法行為に基く損害賠償金として、第一審原・被告町野吉蔵が金七五五万一五〇〇円、第一審原告町野シゲ子が金七四三万六〇〇〇円、およびこれらに対する本件事故発生の日である昭和三九年八月一九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容すべきものであり、同第一審被告に対するその余の請求および第一審被告国に対する請求は理由がないからこれを棄却すべきものである。

二  乙事件について

1  請求原因1の事実(本件事故の概要)および本件事故当時第一審原・被告町野吉蔵が本件自動車の運行供用者であったことは当事者間に争いがない。

2  本件事故が本件自動車のブレーキ装置の故障、即ち本件自動車の構造上の欠陥ないし機能の障害に起因するものであることは、第一審原・被告町野吉蔵において自認するところであるから、同人は、平秀次、牧野一義の死亡、牧野茂の受傷によって生じた損害につき自賠法三条による責任を免れない。

3  過失相殺について

本件事故の態様の詳細は前記一項2のとおり(原判決理由説示二項1引用)であるが、それによれば、平秀次らが被害車の故障に際してとった措置はいささか適切を欠くきらいはあるが、本件事故現場付近の道路の見通し状況にてらし事故を誘発する危険性の特に高い行為とは認められず、いまだ過失相殺を相当とするほどの非難可能性はないといわなければならない。

また、原審および当審における第一審原・被告町野吉蔵本人尋問の結果によれば、前記平秀次らには目前に迫った本件自動車から身をかわすについて不手際のあったことがうかがえないではないが、突然生じた危険状態に対し冷静かつ合理的に対応することを通常人に期待することは困難であるから、右事情に基いて過失相殺をすることもまた相当でないといわなければならない。

4  損害およびその填補について

(一)  平秀次の死亡により第一審原告平ちのに生じた得べかりし利益喪失による損害、損害賠償請求権の相続関係および慰藉料についての当裁判所の判断は、原判決理由説示六項(二)の(イ)(ロ)(ニ)と同一であるからこれを引用する。

右によれば、第一審原告平ちのは、その自認する退職手当金および共済遺族一時金による損害の填補を考慮しても、第一審原・被告町野吉蔵に対し優に金一五〇〇万円を超える損害賠償請求権を取得したことが認められる。

第一審原告平ちのは第一審被告石川いすずから本件事故に関する和解金として昭和五二年二月二八日に金一八〇〇万円を受領したことを自認するが、前記のとおり事故当時において少くとも金一五〇〇万円相当の損害の発生が認められ、さらに賠償の遅延による損害の拡大が肯定されるから、右和解金による損害の填補がなされてもなお填補されずに残る損害は金五九三万七五〇〇円であるとの同第一審原告の主張は正当というべきである。

(二)  牧野一義の死亡により第一審原告牧野茂、同牧野さよに生じた損害および第一審原告牧野茂の負傷によって同人に生じた損害に関する当裁判所の判断は、原判決理由説示六項(三)(四)と同一であるからこれを引用する。

右によれば、第一審原・被告町野吉蔵に対し、第一審原告牧野茂は金六四五万円の、第一審原告牧野さよは金六一五万円の損害賠償請求権を取得したことが認められる。

第一審原告牧野茂、同牧野さよは第一審被告石川いすずから本件事故に関する和解金として昭和五二年二月二八日に第一審原告牧野茂が金八〇〇万円、同牧野さよが金七五〇万円を受領したことを自認するが、前記のとおり事故当時において第一審原告牧野茂につき金六四五万円相当、同牧野さよにつき金六一五万円相当の損害発生が認められ、さらに賠償の遅延による損害の拡大が肯定されるから、右和解金による損害の填補がなされてもなお填補されずに残る損害は、第一審原告牧野茂につき金二二九万三一二五円、同牧野さよにつき金二三一万四三七五円であるとの同第一審原告らの主張は正当というべきである。

5  結論

そうすると、第一審原告平ちの、同牧野茂、同牧野さよの当審における請求減縮後の各請求はいずれも理由があるからこれを認容すべきものである。

三  結語

原判決中、第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子の第一審被告石川いすずに対する請求に関する部分は、第一審被告石川いすず敗訴部分については当裁判所の判断と結論を同じくするが、第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子敗訴部分につき当裁判所の判断と一部結論を異にするので、第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子の控訴に基いて右部分を変更するとともに、第一審被告石川いすずの本件控訴を棄却し、原判決中、第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子の第一審被告国に対する請求に関する部分および第一審原告平ちの、同牧野茂、同牧野さよの第一審原・被告町野吉蔵に対する請求(ただし、当審における請求減縮後のもの)に関する部分は当裁判所の判断と結論を同じくするので、第一審原・被告町野吉蔵、第一審原告町野シゲ子の第一審被告国に対する本件控訴および第一審原・被告町野吉蔵の第一審原告平ちの、同牧野茂、同牧野さよに対する本件控訴を棄却し、なお同第一審原告らの当審における請求減縮による原判決の一部失効を宣言し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、九六条、八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 黒木美朝 裁判官 川端浩 清水信之)

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